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ネオ・ペンドラゴンにあるホテルの一室で、C.C.はピザを食べながら窓の外を見ていた。高層の部屋を選んだから、よほどのことがない限り外から姿を見られることなど無い。だから変装もせずにのんびりと椅子に座りくつろいでいた。 追われている身だから、本当は今すぐに動きたいところだが、あまり慌ただしく動き回ると周りに怪しまれかねない。何より、検問があったら困る。だから女二人男一人の観光客を装い、一先ず手頃なホテルに身を隠したのだ。 そもそも、捕まらなければいいだけで、急ぐ旅では無い。 どこか目的地があるわけでもない。 焦る気持ちを抑えて、じっくりと腰を据え、安全なルートを探るべきだ。 眼下の町並みはいつも通り平穏で、特に異常はないなと、まだ日は高いがカーテンを閉め、テレビをつける。パソコンでの情報収集は苦手なため、C.C.の情報源は相変わらずテレビやラジオだ。 夢中になってテレビを見ていると、今まで聞こえていたシャワーの音が止んだ。 その後シャワールームから一人の男が姿を現した。 「・・・またピザを食べてたの?」 シャワーを浴びていた男は、あからさまに嫌そうな顔をした。 「いいだろう、私が何を食べようと。お前の分はそこにパスタを用意した」 C.C.はベッド脇に置かれていた小さなテーブルを示しめすと、匂いで解ったのかそちらに視線を向けた。その動作はあまりにも自然で、盲目だという事を忘れてしまいそうになる。人間とは違い、犬や猫は盲目でもそれを感じさせないほど普通に生きられるというが、スザクはまさにそんな感じだった。 目が見えないはずなのに、まるで見えているかのような反応を示す。 と言っても、1人にして大丈夫かといえば、そうでもない。 最初、このホテルでは部屋を二つ借りたが、目の見えないスザクを一人にするのは危険だという事になり、二人部屋を三人で使い、スザク用にと借りた一部屋は使用しないことになった。 万が一軍に見つかっても、先に押し込まれるのは少し離れたあちらの部屋だろう。 ちなみに部屋を借りる際にはC.C.が盲目を装い、スザクが補助をしているかのように移動していたため、盲目の男というワードで見つける事は難しいはずだ。 髪を拭きながらベッドに腰掛けた男は、何かに気づいたように辺りを見回した。 見えないのに視線を向けるのは、体に染みついた癖のようなものだろう。 だから余計に、見えているのではないか?と思ってしまう。 「咲世子さんは?」 C.C.とアーニャによる猛特訓?のおかげで、ある程度の気配を感じられるようになったスザクは、ここの部屋にC.C.しかいない事に気がついた。 「買い物だ。細々したものまでは持ち出す暇はなかったからな」 「一人で?」 危険ではないかと、スザクは眉を寄せた。 スザクほどではないが、黒の騎士団にも各国の上層部にも、咲世子の顔は十分知られている。一緒にいたという情報を軍は掴んでいないだろうが、スザクの情報を得るために、ゼロの関係者である彼女を捕まえようとする可能性は高い。 「変装はしているから、問題はないさ」 長髪のかつらにサングラス着用、マスクで口元も隠し、服装も絶対に解らないようなものを選んでいるから、アレがそうだとは誰も思うまい。 「そっか、まあ、咲世子さんだから大丈夫・・・かな」 天然さえ発揮しなければ。 既に室内を把握していたスザクは、匂いと感覚を頼りにパスタに手を伸ばした。多少ぎこちないが、間違いなく皿の傍まで手を伸ばし、手探りでフォークも見つけ出し、当たり前のように食事を始める姿に、人間やればできるものだな。いや、これは枢木だからか?ルルーシュならこうはいかないだろう。と、考えていると、部屋の扉が開いた。 「おかえりなさい、咲世子さん」 スザクは靴音で誰かを判別できる。といっても、今はまだ4人だけだが。 室内に入って来た相手に対し、爽やかな笑顔を向けたこの男の目が見えないなど、本当に信じられない思いだ。もし見えていたら、目の前の人物の変装に何かしらの反応を示すはずだから、見えないのは間違いないのだが。 「ただ今戻りました」 買い物袋を手に戻った咲世子は、それらを一度ベッドに置くと、手早く開封し中身を三人の荷物の中へと手際良く納めていった。追われている以上、すぐに逃げられるよう荷物はまとめたままだ。 「一応食事は用意したぞ?」 C.C.が指差した先にもパスタ。 「・・・ありがとうございます、C.C.様。こちらを片付けましたら、いただきます」 「ああ、そうしてくれ」 そんなやり取りをしている間に、スザクはごちそうさまと食事を終えた。 「それで、状況はどんな感じなの?」 スザクは自分で情報を集める術がない、ニュース関係はスザクがいると消してしまうため、外からの情報が得られないのだ。 「表立って騒ぎにはなっていないが、アーニャとジェレミアは逃げたようだ」 「あの二人が?なんで?」 「お前の居場所を知らないと言った所で信用されず、捕縛される事が目に見えていたから、一応何も知らないふりで応対をした後、隙を見て逃げたらしい」 先ほどパソコンを使いアーニャのブログをみたら、C.C.達だけが解る暗号が書かれていた。オレンジ農園に関しては近隣のオレンジ農家・・・元ジェレミアの領地の人間が手を入れてくれるそうだ。実直で堅実だったゴッドバルト家は、領地の人間に慕われていたそうで、不祥事を起こしたジェレミアにもいまだに手を差し伸べてくれる。 「捕縛なんて、そんな事・・・」 する筈がないと言いたげなスザクだったが、C.C.は呆れたように言った。 「クロヴィス殺害の犯人にされた時の事、忘れたのか?ジェレミアでさえああだったんだぞ?行政特区での軍の動きを忘れたか?皇女殿下の命令だからと、虐殺に参加するのがブリタニア軍人だ」 触ったこともない銃から、スザクの指紋が見つかったとジェレミアはいい、犯人はお前なのだから吐けと暴力までふるった。 行政特区は、ルルーシュがあの場に配置された軍人にそういうギアスをかけたものだと思っていたが、あれは皇女の命令に従った結果だとゼロレクイエムの後知る機会があった。あの日参加していた元軍人が良心の呵責に苛まれ、当時の状況をゼロに告白したのだ。ジェレミアを呼び寄せキャンセラーもかけたが、彼の懺悔の内容は変わる事はなかった。 もし、周りの兵がダールトンのようにユーフェミアを止めていたなら。 撃たれる覚悟で、反抗の意思があると断罪される覚悟で、ユーフェミアを止めていたら。いや、止めるのは無理でも、ユーフェミアの命令には従わず、だけが日本人に向けて銃を向ける状況だったら。 ユーフェミアの銃には、弾丸が2発しか装てんされていなかった。 誰も手を貸さなければ、被害者は多くても2人だったのだ。 最初に撃たれた日本人と、腹を撃たれたダールトンだけ。 口径が小さかったことから、当たり所が悪くなければ、死ぬ事さえ無かっただろう。 機関銃を手にする事も、KMFに騎乗する事もなく、被害は最小限で済んだのだ。あそこまで大きくなった原因は、やはりブリタニアという国の歪みゆえ。その歪みをルルーシュは正そうとしたが、数か月の圧政、数カ月の改革だけで、根深い歪みを正すことなど出来ず、今もこうして残っていた。 「あの二人は上手くやるだろうさ、シュナイゼルもいるのだから、万が一捕縛されてもどうにかなる。だから、私たちが逃げおおせることだけを考えろ」 死んだはずのナイトオブゼロ・枢木スザク。 不老不死の魔女・C.C.。 どちらも絶対に、どの国にも渡してはいけないカードだ。 食事を進めていた咲世子は手を止めると、パソコン端末を開いた。 カタカタとキーボードを操作し、テレビでは流れないような情報を探し出す。 「咲世子さんがパソコンを?」 意外だと、スザクは口にしたが、そうでしょうか?と咲世子は返した。 「お忘れですか、スザク様。私は黒の騎士団の諜報員です。今はシュナイゼル様にお仕えしておりますが、この程度の事が出来なければ、諜報活動などできません」 シュナイゼルとのやり取りも基本端末を使って行う。 スザクのように脳筋では勤まらないのだ。 スザクがまだ騎士であった頃、書類仕事は出来るだけ部下に任せたり、セシルに頼んだりと、自分では極力やらずにすませていたが、咲世子は単独行動だから、自分で全てをこなしているのだろう。 カタカタと軽快な音が室内に流れていたのだが、突然その音は止まった。 「・・・C.C.様、スザク様、シュナイゼル様も動かれました」 なぜシュナイゼルが?と、スザクは眉を寄せた。 |